【高校数学】三角比の意味と基本
導入:三角比とは?
今回は三角比についてお話ししようと思います。 高校数学で登場する$\sin \theta$や$\cos \theta$等ですね。 数$\rm{I\hspace{-.01em}I}$では三角関数として再定義されます。 一言に三角比と言っても、これに関する定理や公式はたくさんありますので、 今回は定義と基本公式だけに絞ってお話しできればと思います。

高校でいきなり沢山の公式と一緒に登場するため、本質の理解を疎かにしがちですが、 見た目ほど難しいものではありません。 まずは三角比の定義から順に説明していきます。

三角比の定義
まずはしっかりと三角比を定義しましょう。


  定義:三角比  
図のような直角三角形$\rm{ABC}$において

\begin{eqnarray*} \cos\theta&=&\frac{\rm{AB}}{\rm{CA}}\\ \sin\theta&=&\frac{\rm{BC}}{\rm{CA}}\\ \tan\theta&=&\frac{\rm{BC}}{\rm{AB}} \end{eqnarray*}

    

と定める。$\cos\theta,\ \sin\theta,\ \tan\theta$をそれぞれ $\theta$に対する余弦$,\ $正弦$,\ $正接と呼ぶ。



三角比とはその名の通り、直角三角形の比のことです。 ここで大切なのは、
$\cos\theta,\ \sin\theta,\ \tan\theta$の値は 直角三角形$\rm{ABC}$の大きさには依らず、$\theta$の大きさのみによって決まる
ということです。 $\rm{AC}$の長さが$1\rm{\ m}$でも$1\rm{\ cm}$でも$\theta=30^\circ$であれば$\sin \theta$は$\frac{1}{2}$になりますね。

三角比を計算するときは図形自体を気にしなくて良いため、 図形的な情報を代数的に扱いやすくなります。 ベクトルや円の方程式等の理解にも不可欠な上、使いこなせばとても強力な定理が山ほどあります。 正弦定理や余弦定理などが代表ですが、 例えば三角形の面積を$($どこが底辺と高さかを気にしなくても$)$一発で計算できるようになります。

とはいえいきなり使いこなすのは難しいので、まずは試しに色々な直角三角形を書いて三角比の値を求めてみましょう。 三角定規と相似形になるもの$(\cos\ 60^\circ$や$\tan\ 45^\circ$など$)$が良いと思います。

    

$\cos45^\circ$等三角定規に関するものは憶えてしまっても良いですが、 まずは図形との対応をしっかり意識して下さい。 $\cos 60^\circ=\frac{1}{2}$は「細長い三角定規の短い辺の長さは斜辺の長さの半分」と算数風に言い換えられます。 中学生の時「$1:2:\sqrt{3}$」や「$1:1:\sqrt{2}$」になる直角三角形を習ったと思いますが、これと合わせて理解しましょう。

三角比の性質
続いて三角比に関する有名な関係式を見ていきましょう。 なお、$\cos \theta$等の累乗は$\cos\theta^2$等のようには書かず、 $\cos^2 \theta$の様に$\cos$の右肩に指数を書きます。 $\cos\theta^2$と書くと、「角度を2乗してるっぽく」見えてしまいますからね。


  公式:三角比の相互関係  
任意の$\theta$について以下の式が成立する $\left( 0\leq \theta < 90^\circ \right)$。

\begin{eqnarray} & &\tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}\\ & &\cos^2\theta+\sin^2\theta=1\\ & &1+\tan^2\theta=\frac{1}{\cos^2\theta} \end{eqnarray}

と定める。$\cos\theta,\ \sin\theta,\ \tan\theta$をそれぞれ $\theta$に対する余弦$,\ $正弦$,\ $正接と呼ぶ。



それでは関係式を1つずつ見ていきます。まず式$(1)$は三角比の定義から分かりますね。

\begin{eqnarray*} \frac{\sin\theta}{\cos\theta}&=&\frac{\rm{BC}}{\rm{CA}}\div \frac{\rm{AB}}{\rm{CA}}\\ &=&\frac{\rm{BC}}{\rm{AB}}=\tan\theta \end{eqnarray*}

単位円を扱えばより厳密に表現できるのですが、
$\cos$は$x$方向$,\ $ $\sin$は$y$方向$,\ $ $\tan$は傾き
という意味に捉えることができますので、中学生で習った

\begin{eqnarray*} \left(\mbox{変化の割合}\right)=\left(\mbox{傾き}\right)=\frac{\left(y\mbox{増加量}\right)\ \ \ \ \ }{\left(x\mbox{増加量}\right)\ \ \ \ \ } \end{eqnarray*}

と対応させて理解しましょう。次に式$(2)$ですがこれは
三平方の定理
です。 定義の時の直角三角形$\rm{ABC}$について、$\rm{AC}=1$であれば

\begin{eqnarray*} \cos\theta&=&\rm{AB}\\ \sin\theta&=&\rm{BC} \end{eqnarray*}

であり、三平方の定理を使うと

\begin{eqnarray*} \rm{AB}^2+\rm{BC}^2=1\\ \end{eqnarray*}

となるので、代入すれば式$(2)$は三平方の定理と同じものだと分かると思います。 最後の$(3)$ですが、これは
$(2)$の両辺を$\cos^2\theta$で割る
ことで導けます。 途中で$(1)$も使います。

\begin{eqnarray*} \cos^2\theta+\sin^2\theta&=&1\\ \frac{\cos^2\theta+\sin^2\theta}{\cos^2\theta}&=&\frac{1}{\cos^2\theta}\\ 1+\frac{\sin^2\theta}{\cos^2\theta}&=&\frac{1}{\cos^2\theta}\\ 1+\tan^2\theta&=&\frac{1}{\cos^2\theta} \end{eqnarray*}

ここで$\theta < 90^\circ$ですので、$\cos\theta\neq 0$であることに注意してください。 数学では「$0$で割る」ことは出来ないので、割る数が$0$にならないことは常に確認しましょう。

これらの相互関係は
三角比を相互変換するときによく使います
。 例えば$\cos \theta=\frac{1}{2}$と分かっているとき、式$(2)$を使えば

\begin{eqnarray*} \frac{1}{4}+\sin^2\theta&=&1\\ \sin\theta&=&\frac{\sqrt{3}}{2} \end{eqnarray*}

と正弦の値を計算できます。さらに式$(1)$から、

\begin{eqnarray*} \tan\theta=\frac{\sin\theta}{\cos\theta}=\frac{\sqrt{3}}{2}\div\frac{1}{2}=\sqrt{3} \end{eqnarray*}

と正接の値も計算できますね。 勿論$\cos \theta=\frac{1}{2}$なら$\theta=60^\circ$となることがすぐに分かるので、 改めて直角三角形を書けば図形的に$\sin \theta$を求めることもできますが、 角度を直接求められないような場合$(\cos\theta=0.6$等$)$でも計算で何とかなりますね。

まとめ
今回紹介したことは三角比の基礎的なことですので、学校の問題集などにはこの公式に関する問題が必ず載っていると思います。 初めは公式を見ながらでもいいですが、それらを解く時は以下のことを意識して下さい。

三角比は直角三角形の辺の比!

$\cos$は$x$成分$,\ \sin$は$y$成分$,\ \tan$は傾き!

三角比の1つが分かれば他は計算できる!


単位円による拡張や正弦定理と余弦定理など、紹介すべきことはたくさんありますが長くなってしまうので 次回以降に説明します。まずは直角三角形をたくさん書き、$\cos,\ \sin,\ \tan$が何を表しているのかを 解釈してみてくださいね。