【数学全般】途中式って書くほうがいいの?
導入:式を書くのは面倒臭い!
まず前置きとして、学校で大半の人が感じたことだと思いますが、
途中式や図を書くのは面倒臭い
です。
これはもはや真理です。この記事を書いている私も例外ではなく、
出来ることなら暗算で済ませたい・・・それが本音です。
それでも$($私含めて$)$多くの方は「途中式を書いて」と言われたことがあると思います。
恥ずかしながら、私も小学生の頃は途中式をすっ飛ばして計算し、よく先生から注意されていました。
しかし、数学を教える立場になって実感していますが、これは別に嫌がらせとかではありません。
今は生徒・先生両方にとって本当に必要だと思うから「途中式を書いて」と伝えています。
今回はそんな
「途中式は書くべきか」問題
について取り上げたいと思います。
まず書くべき理由を挙げていき、最後に落としどころ、つまり
書くべき場合とそうでない場合の線引き
が出来たらなと思います。
個人的な経験に基づいた私見も多く含まれると思いますので、参考程度にご一読ください。
書くべき理由その1:計算の手順と意味を身に付けるため
個人的にはこれが一番基本的な理由だと感じていますが、
学年問わず(算数も含め)言えることだと思います。
一次方程式の計算を例に取り上げますが、基本に沿って変形するとこうなります。
\begin{eqnarray*}
2x+4&=&5x-8\\
2x+4-4&=&5x-8-4\\
2x&=&5x-12\\
2x-5x&=&5x-12-5x\\
-3x&=&-12\\
\frac{-3x}{-3}&=&\frac{-12}{-3}\\
x&=&4
\end{eqnarray*}
かなり長くなってしまいました。一次方程式の計算(移項)の本質は、
両辺に同じ項を足したり掛けたり(引いたり割ったり)してもイコールは崩れない
ということです。
これを理解したうえで、丁寧に途中式を書くことで、意味を理解しながら変形する習慣が身に付くと思います。
ですので、計算を習ってすぐの間は途中式を書くほうが良いと思います。
習ってからどのくらいの期間これを書くべきかは、人によりますので難しいところですが…
少なくとも、基本的な文章題ならサラサラ解けるゼ!ってなるまでは、
意識して書いたほうがいいでしょう。
とはいえ結構な長さになってしまうので、書く量としては
\begin{eqnarray*}
2x+4&=&5x-8\\
2x&=&5x-12\\
-3x&=&-12\\
x&=&4
\end{eqnarray*}
くらいでいかがでしょうか。
各変形の意味がすぐに分かるなら、省略してもいいと思います。
上記の方程式なら私は暗算しますが、無理しなくても構いません。
無理やり暗算して時間がかかってしまったら意味がない$($そして結構ツライ$)$ですからね。
また一概には言えませんが、上記の本質がどうしてもつかめないなら、
式を書くことで、手に覚えさせるというのもひとつの手段ではあると思います。
この理由からすると、方程式の意味が分かりさえすれば、
途中式は書かなくていい、ということになりますね。
もちろん、
方程式の意味が分からないのであれば、
途中式をしっかり書いて理解しようと努力するのは素晴らしいことだ
と思いますよ。
書くべき理由その2:間違いに気付けるから
途中式がなければ生徒も教える方もどこで間違ったかが分かりませんよね。
教える方からすると、特に計算の意味が分かっているか判断できないのがかなりツライです。
もしも、
\begin{eqnarray*}
2x&=&-x+1\\
x&=&3
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
2x&=&-x+1\\
3x&=&1\\
x&=&3
\end{eqnarray*}
と最後の変形で思い違い$($理解不足のため$)$をしているのかな?と予想できますが、
式が複雑で
\begin{eqnarray*}
5x+9&=&2\left(x+6\right)\\
x&=&-1
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
5x+9&=&2\left(x+6\right)\\
5x+9&=&2x+6\\
3x&=&6-9\\
3x&=&-3\\
x&=&-1
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
5x+9&=&2\left(x+6\right)\\
5x+9&=&2x+12\\
3x&=&9-12\\
3x&=&-3\\
x&=&-1
\end{eqnarray*}
というように、
単に符号を書き間違えた
のか
判断がつかない場合もあります。
勿論、移項を理解できていないという可能性も考える必要はありますね。
「ケアレスミスだと思っていたら、実は移項の本質が分かっていなかった」なんてこともよくあります。
そして、途中式を書きたくない気持ちが強い子$($私もそうでした・・・$)$に多いのですが、
文字抜けや符号忘れといったケアレスミスを連発します。ホントにもったいない・・・。
これについては、単純にミスが多いというよりも、
自分のミスに気づけず修正できないまま採点される
ので、
見た目上ミスが増えるのだと思います。
精度を上げたい場合、方程式だと元の式に解を代入すれば検算できますが、単純な四則計算だと見直しが最も有効です。
計算ミスを自分で見つけるには、途中式があったほうがいいでしょう。
人は皆ミスをしますので、それをどうやって見つけるかが大切
ですね。
書くべき理由その3:丸付け・直しの時に役立つから
これは上記の「その2」と重なる部分がありますが、宿題などで間違い直しをする時、
途中式がなければ、自分がどこで間違ったかわからないという状況に陥ります。
数学の応用問題の場合は特にですが、正しい解き方(の例)を憶えることではなく、
自分の解き方の何が間違いなのか知ることが最も大切
です。
文章題の場合、変数設定や立式の方法は一つではない場合が多いですし、
自分の考え方に沿った方法(=自分の途中式)を磨いていく方が効果的です。
ですので、文章問題を解くときはしっかりと式を書き、
「私はこうやって解いたんだ!」という主張を残しておかなければなりません。
その後答え合わせをし、もし間違っていたのなら、
自分の解き方のどの部分が間違っていたのかを考えます。
これがいわゆる直しですね。
模範解答をそのまま憶えただけでは、出題形式が少し変わっただけで対応できなくなります。
なので利用問題では模範解答をそのまま写して憶えるのではなく、
「ここ直せば正解!」というのを見つけることが最重要
です。
そのために、途中式はなくてはならないものですよね。
書くべき理由その4:問題を一歩引いた位置から考えられるから
ここからは主に高校数学の学習を前提として考えていきたいのですが、
複雑な問題を解くときは、色々と式を書いて、方針を決める必要があります。
デッサンみたいなものですね。たとえば
「$1$辺が$6$の正四面体に内接する球の半径を求めなさい。」
という問題があるとします。この時「頂点と中心を結んでみたらどうだろう?」とか
「空間ベクトルの知識で解けないかな?」だったり「平面の方程式を使えるかも?」
といったアイデアを出していく必要があります。
正解かどうかにこだわらず、補助線を入れたり座標を設定してみたりと、
自由気ままに実験していきます。
ここでは図形的に解いてみることにしましょう。
この場合、「球の中心から面に垂線をおろしてみよう」とか
「各面は重心で球と接する」等、思いついたものを順に、図へ書き込んでいきます。
不要なアイデアも含まれていると思いますが、
(ある意味偶然に)「これで解けるかも!」という道筋が見つかります。
例えば
・「球の中心と頂点を2個通る平面で切断する」
・「その断面の相似な図形を見つける」
・「半径を$r$とし、比例式を立てる」
という流れで解けそうです。あとは清書していけば正解ですね。
この清書のみ切り取って見た人は、問題によっては「よく思いついたな」とか「発想力がすごい」となるわけですが、
その前に何度も実験するのが普通です。
数学の問題を解く時は、このようにいろんなヒントを合体させて進めていくので、
このような
思考や発想の表現方法を知らなければ先に進めません
。
ああでもない、こうでもないと考えるときは必ず、
図や式を書いて試しにやってみる力(試行力)が必要なので、
ある程度解き方が分かる問題でも、途中式を書いて自分の思考の順番を書いておくことは大切ですね。
書くべき理由その5:相手に自分の考えを正論で伝えられるから
話の流れ上最後になってしまいましたが、
数学を勉強する理由は?と聞かれて、私が真っ先に思い浮かべるのがこの理由です。
「数学の本って何書いてるかわからんのですが?!」とツッコむ方も多いと思いますが、
数学は(詭弁などを使わず)正論で説明する練習にはうってつけの教科だと思います。
確かに、数学が使われた論文や記事などを理解するのは(数学を教えている私にも)難しく、
それは以下のページを見てもらえれば実感できます。
数学の研究をされている方とかではない限り、パッと見ただけでは意味不明ですよね。院生の頃私もそうでした。
論文などでは分かりやすさよりも厳密性や一般性を重視するはずですので、こうなってしまいます。
ですがしっかり読んでいくと、
(理解できれば)だれの目から見ても正しいことが、超正確に記述されています。
査読中の論文等であれば論理に穴が発見されたりするかもしれませんが、
少なくとも数学の問題集に書かれていることは
客観的に正しいとされています。
数学の証明や途中式は正しいか間違っているかが必ず決まります
。
「ニュアンス的にこの場合は~」とか、「結局個人の価値観が~」といったグレーゾーンがありません。
つまり、自分が書いたこと(意見)が正論かどうかが確定します。
そういった意味でしっかりと筋道だった論理的な整然とした文章を書く練習をするのに、
数学は適していると思います。
バツになった場合、自分がなぜ間違っているのかが必ず理解できるはずですからね。
講師の私が言うのもなんですが、人にものを分かりやすく説明するのはとても難しいことです。
論理的に正しいというだけで良い説明とは言えませんが、
無くてはならないものだとも思います。
そのように考えると、説明力やコミュニケーション力を身に付けるためには、
誰から見ても理解できるように途中式を書くことは重要です
ね。
どういう場合は途中式を書かなくていい?
ここまで、途中式を書くべき理由を5つほど上げてきました。
このうちの、
・1~4は自分(又は先生)のために
・5は採点者(や話を聞く側)に向けて
途中式を書くべき理由です。
ただし、理由4で取り上げたような問題は、
途中式も採点対象であることが多いと思うので、
清書は採点者にもわかってもらえるよう、しっかりしなければなりませんね。
途中式を書かなくていいかどうかも理由1~4と理由5で変わってきます。
理由1~4に対しては
「(計算ミスなども含め)絶対に間違わないという自信があれば」
、あるいは
途中式を書かなくてよいということになると思います。
ただしこの判断はなかなか自分では難しい場合もあると思うので、
そういう時は先生等に判断してもらう方がいいでしょう。
省略してもよい、というか冗長なことは書かない方が簡潔になってよいですね。
ですが、少なくとも数学には「普通はこう表現する」という型が大概ありますから、
省略できることはあまり多くないと思います。
上記の型は、問題集の正答に書かれていると思います。
授業の板書なども含め、表現の型はどんどん真似をして吸収していきましょう。
式を書きすぎると余計な時間がかかったり、
テストで計算スペースが無くなったりしてしまいます。
そして何より面倒くさいです。
かといって省略しすぎるとミスが増え、
採点者に自分の意図が通じません。
バランスが難しい所ですが、まとめると
まずはしっかり式を書き練習する
分かり切った部分の計算は省略する
記述の答案を書くときは型を守る
辺りになると思いますが、数学の問題を解く際はこれを意識してみてくださいね。